おはなしかご
 

エッセイ集

エッセイ集
「新しい力」


生母が亡くなって、しばらくして継母がきた。
ろくに口も聞いたこともない男のところに、自分の子でもない子がいる家に、親戚の世話で小さな柳行李(やなぎごうり)ひとつを持ってある晩やってきた。
だが、当時9才だった弟は「おめえなんか母ちゃんじゃねえ」と継母の行李(こうり)を雪の中に放り投げた。
あの時、冷たい雪の中にちらばった荷物を、その頃まだ若かった継母は一体どんな気持ちで拾い集めたのだろうか・・

・・・・それから13年の年月が経ち・・・・・弟が22才の時、継母は亡くなった。
その夜、明け方まで泣き続ける弟の姿を見て、継母と彼との間に積み上げられた苦しみも、悲しみも喜びも入り交じった、深い歳月を痛い程感じた・・・

字も書けず無学だった継母は、よれよれの着物で朝から晩までただただ働きずくめだった。
自分の気持ちなど考えたことなど一度もなかっただろう。
そんな継母だったが、わずかな時間子どもとあそべる時があると本気であそんでくれた。
その本気さに包まれ、いつのまにか継母は弟の「本物の母ちゃん」になっていったのだ。

(遠藤豊吉)




世界中の人々が今まで当たり前にあったものを失った。そして必死に新しい力を求めている。
企業・政治・学校・エンタテーメント界、ありとあらゆる場で皆が必死に生きのびる道を探している。 (財)を持つ人達はその(財)が少なくならない様に血眼になっている。
貧しい者達は、一日一日を生きるのが精いっぱいで、吹いてくる風に吹き飛ばされない様に わずかな何かに必死にしがみついていて、新しい道など考える余裕などない。

新しい力・新しい道・・はある晩、親戚の世話でやってくるのだろうか?


実に多くの親戚達(政治家・評論家・コメンテーター達)が朝から晩まで叫びながら探してくれている。
そしてやがて親戚達はある事を見つけたのだ。皆、声を合わせて言いだした。
外国の言葉で・・・「S D G s」・・・と・・・・日本語で言うと・・
「世界中にある問題・差別・貧困・気候・経済・人権といった課題を解決してゆくことで、その方法は自然環境に悪影響を与えず、しかも一回上げた花火ではなく、未来に向かってしっかりと継続してゆける方法で、それを国や企業や様々な人達がそれぞれの場で実現してゆこう」という
新しい生き方のことだ。

親戚の世話でやってきた新しいものを「おまえなんか母ちゃんじゃねえ」と放り出す人はいないだろう。やってきてくれた新しいものが、何か「いいこと」をしてくれる・・と思うからだ。
ある人が「SDGsって言うの、あんたんち、もう来た? それっていいもん?」と聞いたそうだ。

親戚の世話でやってきた新しい生き方は、来たその日からすぐには「本物の母ちゃん」にはなれないのだ。

汗を流し、苦しみも、悲しみも、喜びも入り交じる、丹念に積み上げられた深い歳月を痛い程感じる年月を経て・・・「本物の母ちゃん」になってゆくのだ。
本気で願った者が、全力で挑戦したとき、新しい力が本物になるのだ!

だが・・不思議な事がある。あらゆる場にSDGsが訪れているのだが、まだ行っていない場所がある。しかも立派な親戚達(政治家も企業も評論家も)「お〜い、あそこにはまだ行っていないぞ」と言わない場がある。ビジネスにならないからだろう。 そこは子どもの心の世界だ。
空から降ってくるのが爆弾ではなく、美しく、やさしい言葉であったなら・・と言った人がいる。
そうなのだ。軍事力ではなく文化力なのだ。おはなしかごはもうずいぶん前からそのことを大声で叫び続けている。 今のままでは「子どもの文化環境は緊急事態である」と・・・・
その声を聞き取ったのは、子どもの心の自由を大切にし、保育士のクオリティーの実現に向かっている「どろんこ会グループ」だった。・・・・そして2021年春より2者はタッグを組み

          
「子どもの文化のSDGs」プロジェクトを立ち上げた。

子ども達の最大の社会環境である「保育士・教師の文化力」が今だけでなく、将来にわたり進化し継続し、やがて新しい力(イノベーション)を生んでゆくことを目的としたプロジエクトだ。
このことは保育士・教師の精神のクオリティーの向上に、教育現場そのもののクオリテイーにも大きく寄与することは言うまでもない。
子どもに届ける文化が、空いた時間の隙間を埋める駄菓子ではなく、心の食べ物として確かな文化と言えるクオリテイーを持つ為に・・国語教育が言語文化としてのクオリティーを内包する為に、ひとりひとりが自分自身の文化力獲得に向かい、プロとしての誇りを持ち大事な仕事としてチャレンジしてゆこう!というプロジェクトだ。   トップランナーが走り出した!





ある日、土と水と光の中で思いっきり遊んでいるどろんこ保育園の子ども達を見た。これほどのグラウンドを創った大人がいたことに心奮えた。この子達の心に「サンタクロースの部屋・心の水と光と土の部屋」を創ってあげたい!と思った。そして1 才〜 5 才まで年齢別に「小さな劇場」を毎月届けさせてもらった。
すると、想定を遥かに超え、子供達の心に人形や魔法の小人や、森の妖精達が砂漠で水に出会うようにごくんごくんと、飲みこまれていった。保育士の目がキラキラと輝き、夢中で小さな劇場を見ていた。
子供達は私の姿を見ると駆け寄ってくる。玄関でぐずって泣いている子が「あっ!今日お話会だ!」と泣き止む。子供達は私と言う個人が好きなのではない。届けるあのひとときの中で、自分の心に生まれてくる 美しい気持!楽しい気持!躍動する気持、それらが小さな心に抱えきれないほどある、悲しさや淋しさや自分ではどうすることもできない苦しさを、穏やかに沈めてくれて、喜びと生きる力が生まれてくることをはっきりと感じているのだ。
ある日6年生のお話会を終えた帰り道、一人の子が追いかけてきた。そして私の目をまっすぐに見つめて「今日はありがとうございました」と子どもなのに深く頭を下げたのだ。大事なことを聞き取ってくれたのだ!心が奮えた!「ようし!」と力が湧いてきた!・・・・だが私の力には限りがある。このひとときを保育士や 教師が届けられる様になることだ。仕事として、本気で誇りを持って挑めるグラウンドを創ることだ。
そして世界中どこの国でもまだ実現していない「子どもの文化のSDGs」を実現させ子供達の心を幸福にしてゆく年月に向かい・・やがて大きな声で「・・そして今がある!!」と言える日を迎えよう!

(プロジェクトのURLです。是非ご覧下さい)https://www.doronko.jp/action/20210930a/






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